
B600F
エピソード6
「ぜぇぜぇ………」
阿修羅は乱れる息を整える。手にしたナイフからはどす黒い血が滴り落ちた。
――阿修羅が雷電に助けられてから何日がたっただろう。
ここは住人であった阿修羅の思っていた以上に危険な状態にあった。
というのも、グランディオは城そのものが巨大な都市だ。むろん、食糧となる動物もここで飼育されている。
しかし、今や彼らの世話をする者がいなくなっている。空腹に耐えかねた動物たちは檻を壊し、餌を求めて城内を徘徊していたのだ。
今、阿修羅が息を切らしているのも、そのうちの一頭をしとめたためだ。
「まだまだだな。阿修羅王。家畜一匹殺すのにそんなへっぴり腰では王になどなれんぞ」
「仕方ないだろう! 襲ってくる敵を俺ひとりで倒してるんだ。ぼーっとみてないで、少しは手伝ってくれよ!」
阿修羅が怒鳴ると、雷電は悪びれたようすもなく、むしろ不服そうに答えた。
「王となろうという者が泣き言か? 俺がおぬしを手伝ってしまったら、おぬしは俺を頼るだろう。俺は強いからな。だが、それでは意味がない」
「意味がないって……、なんだよ、何がいいたいんだよ」
「修行が足りんな。王となる者がこれしきの試練を乗り越えんでどうするといいたいのだ。おぬしの力、意志の力を俺に見せてみろ」
「……意志?」
阿修羅はナイフに目をやる。
「そうだ。王に必要なのは確固たる意志。それなくしては、誰もついてこん」
実に正論だ。正論だったが、格好よすぎてまるめこまれている感じがする。
阿修羅はむうっと唸ってから顔をあげた。
「……わかったよ! 雷電の力を借りなくても、自分で何とかしてみせればいいんだろっ」
なかば投げやり気味にそう答える。
「うむ。それでよい。……まあ、しかし」
雷電は指で顎をさする。
「確かにおぬしのそのやせっぽちの身体ではなかなかきついだろう。どうしても逃げたい敵がでてきたのなら、俺が力を貸そう。助けた手前、そのくらいはしてやらんとな」
「いいよっ! 俺一人でできるからっ!」
ふくれっ面で顔を背けた阿修羅を見て、雷電は首をかしげる。
「? 何を拗ねておるのだ。王たる者、人の助力を受けるときは受けるものだぞ」
「うっ……な、なんだよっ! さっきと云ってることが違うじゃないか! わけがわからない!」
「? そういうわけではないのだがな」
「ぎゃっはっは! バカなんだろー!? 俺様は楽しけりゃどっちでもいいぜ!」
暇そうにしていたBLOODが待ってましたとばかりに声をあげた。
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B600F
エピソード7
「よし、これで鍵が修理できたな!」
阿修羅は『再生』によってもとどうりになった鍵を掲げる。材料をそろえるのに案外手間どってしまった。
「ケッ、よーやく次へ行けるってか」
何も手伝っていないくせにBLOODがくたびれた声を出す。雷電がそれに苦笑しながら言った。
「今後は『再生』出来そうなものを見つけたら、あらかじめ作っておくとするか。移動するにも生活用具も必要だろう?」
「ああ。それはおいおい考えていこう。それより、扉を開けるぞ」
阿修羅が鍵を差し込むと、音をたてて扉は開く。だが、その先は同じような洞窟がひろがっているだけだ。
しかし、阿修羅はツバを飲まずにはいられなかった。ここから先はめったに足を踏み入れたことのないエリアだったからだ。
「緊張しておるのか、阿修羅王」
「べ、別に! ただ、何があるのか気になるだけさ」
阿修羅の言葉を聞いて、雷電は顎をさする。
「そんなにたいしたものはなかった気がするがな」
「そ、そうなの?」
「けっけっけ、何かあっても、だんなは風みてぇに通り抜けたからなァ。あっても、気づいてねぇぜ、きっと」
「否定はせん」
(どんな足の速さだよ……)
阿修羅は思わずこころのなかでつっこんでしまう。
「阿修羅王、進まぬのか?」
「進むよ! 進むにきまってる」
阿修羅は苛立ちながら足を踏み出す。
「何を怒っている?」
「怒ってないよ!」
「……怒ってるだろう」
「けっけっ、月のものじゃねぇの?」
「バカいってんな! さっさと行くぞ!!」
「……うむ。それもそうだな」
雷電は小首をかしげたあと、阿修羅のあとを追った。
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