自作小説『阿修羅王』
あらすじ 阿修羅王はグランディオから脱出するため上層階を目指す。
エピソード8
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エピソード8

「ここは何だ? 牢屋か?」
横穴を覗き込んで、雷電が云った。
扉を抜けてしばらく歩くと、奇妙な場所へ出た。少し広くなった通路にはいくつも横穴が開いていて、どれも鉄格子がはめられている。
ひどい異臭がしていることから、その先で何かが腐っているのはあきらかだ。
阿修羅は立ち止まり、難しい顔つきで顎を撫でた。
「たぶん、ここは足抜けをしようとした娼婦や男娼がはいる仕置き部屋だと思う。上にはそういう部屋があるって聞いたことがある。他にも代金踏み倒したヤツとかもいるみたいだけどね」
「なあなあ、この穴に誰かいるぜ。ぎゃっはっは、しかも、生きてるみたいだぜェ」
BLOODの云うとおり、薄暗い穴の先には壁にもたれかかるようにして何者かがうなだれている。もっとも、阿修羅の位置からではそいつが生きているのかわからなかったけれど。
「しぶといのがここにもおったか。阿修羅王、おぬしと気が合うかもしれんぞ」
「し、しぶといって……。もうっ、ほうっておけよ。罪人なんかと気が合うわけないだろ」
「……阿修羅?」
「!」
その声を聞いて、背筋に悪寒がはしる。阿修羅がふり向くと、そいつは這うように近づいてきた。
「……阿修羅、か?」
「お前っ、エゼキエルっ! な、何でこんなところに」
エゼキエル。真っ黒な髪と真っ黒な皮膚、そして、輝くような金の目をもった闇人の青年だ。むきだしの腹に赤い刺青をしていて、それが蛇のように揺らめいて見える。
「知り合いか、阿修羅王」
「し、知り合いっていうか……」
「阿修羅は私の奴隷だ……」
「っ! もうおまえの奴隷じゃないっ! はやく行こう! 雷電!」
「……ふむ。だが、このままだとこやつは死んでしまうぞ?」
「死んだっていいんだよっ、こんなヤツ!」
しかし、雷電はエゼキエルの顔を覗き込んだ。
「エゼキエル、だったな。おぬし、生きたいか?」
「当たり前のことを聞くな……」
エゼキエルは雷電を睨みつける。
「それより、どうして、おまえは私の奴隷と行動を共にしている?」
「うむ、そうきたか」
雷電はさも面白そうに目を細め、焼き尽くさんばかりに自分を見つめるエゼキエルに云った。
「おぬし、自分の命の心配よりも、阿修羅王のことが気になるとみえる」
「き、きもち悪いこというなよっ! 雷電!」
「しかも、ずいぶんと嫌われておるようだ」
「……奴隷に好かれる趣味はない」
エゼキエルはかすかに動揺の色を見せたが、すぐに冷徹に云った。
「雷電といったな? 私をここから出せ。その奴隷の持主は私だ」
「だ、誰がっ! 雷電、行こう……って、何で牢屋を開けてるんだよおっ!」
「助ける。なかなか面白い男だしな」
「ふ、ふざけるな! 俺は反対だっ!」
しかし、阿修羅の抗議もそしらぬ顔で雷電はとうとうエゼキエルを牢から出してしまった。
「……し、信じられない。こ、こんな奴と一緒にいるくらいなら、俺、一人で行くぞ!?」
「阿修羅、私からまた逃げるのか?」
くるりと踵を返した阿修羅にエゼキエルが鋭い声を出す。
「に、逃げる……だってぇ!?」
「違うのか?」
「! あれは、あの時はっ……」
阿修羅は言葉を続けようとして、そのまま固くくちびるを結んだ。
「なにやら事情がありそうだな」
「けーっ、男同士の痴話げんかなんて犬も食わねぇぜェ!」
「……男同士、のう?」
雷電が顎をさするのを見て、BLOODは怪訝そうに宿主を見た。
「違うってェのか? だんな」
「さぁな。俺にもまだわからん」
そう云って、雷電はエゼキエルと阿修羅を見つめた。